朝から粉雪が舞う冷え込みとなった21日、男山本店(気仙沼市入沢)では一年で最も寒い「大寒」に合わせ、全国新酒鑑評会に出品する「蒼天伝 大吟醸」の仕込みが始まった。蒸したコメを冷まし、水と麹(こうじ)と酒母(しゅぼ)が入った吟醸蔵のタンクに入れる。その後、杜氏(とうじ)と副杜氏の柏大輔さん(45)が櫂(かい)棒で中を数回かき混ぜる。タンクを1日寝かせたうえで、この一連の作業をあと2回繰り返す「三段仕込み」を行った後、30日ほどかけて発酵させるともろみが完成する。
仕込みで杜氏を補佐する副杜氏には繊細さが求められる。蒸したコメを重量計に載せ、吸水度合いからコメの硬さ軟らかさを見る。冷ましたコメの中に針状の温度計を差し込み杜氏に報告。コメの温度が12~13度に下がったのを確認してタンクに運び入れる。
柏さんは副杜氏のほかにもう一つの肩書も併せ持つ。男山本店の「企画室長」。会社が考える売りたい酒と杜氏や蔵人(くらびと)が考える造りたい酒をすり合わせ、商品を企画。蒼天伝は少量生産の高級銘柄として数年前に商品化、会社と蔵人の努力で看板銘柄に育て上げた。「パイプ役ですね。サラリーマンの社会で言えば中間管理職かな」と笑う。
東北福祉大を卒業後、仙台市内の酒造会社に就職し営業を担当。結婚などをきっかけに地元に戻り男山本店に入社した。気仙沼での酒造りは今年で15年目になるが、被災を受けた今季は「酒を造る意味合いは今までよりもずっとずっと重い。感謝しながら造る酒です。今までだって手を抜いてないけど、今年も手を抜きたくない」と意気込む。
震災後、全国各地からの励ましや支援の電話が会社に数多く寄せられた。「1日中電話応対してました。九州の見知らぬおばあさんからは『お酒ができたらいつでもいいから送って』と泣きながら言われた」という。停電の中、会社が確保した発電機に自身のノートパソコンをつなぎ3月20日にブログを再開。被災の状況や酒造りが徐々に再開していく様子を発信し続けた。「連絡の取りようがなかったからとにかく『無事です』と伝えたかった」と振り返る。
今季の酒造りは3月下旬に終える予定だ。「(震災後に)できたご縁がある。季節ごとのおいしさを多くの人に提案したい」。企画室長の顔をのぞかせたかと思うと「新酒も味わいがあるけれど、秋まで寝かせて熟成させた酒は角が取れて丸くなる」と副杜氏に。二つの顔を持つ男は真っすぐ酒造りに向き合っている。【影山哲也】
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「被災酒蔵のひとびと」は随時掲載します。
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◆ひと口メモ
コメと水に醸造アルコールを添加したうえで10度前後の低温で発酵させて造る酒。コメの中心部分だけを使うため、雑味がなくすっきりして、華やかな香りの酒になる。精米歩合は60%以下で、純米酒よりも低い。
毎日新聞 2012年1月26日 地方版
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。